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クライミングとBCAA 飲むタイミング(摂取方法)や摂取量、効果・副作用について

 ボルダリングやリードクライミングなどクライミングの世界に入ると必ず経験する「パンプ」。数をこなせばこなすほど筋肉が付きクライミングできる制限時間は延びるもの。しかし、どんなに強くなってもヨレるという現象は必ずクライマーに付きまといます。今回はそんな憎たらしい現象”パンプ”・”ヨレる”を回避できるサプリメント”BCAA”にスポットライトを当て、できるだけクライミングできる制限時間を延ばすことができないか検証したいと思います。

 

BCAA(Branched Chain Amino Acid)とは

 スポーツ全般におけるサプリメントの活用とサプリメント自体の進化は近年目覚ましいものになってきております。その中でも最も注目されているのがBCAAというアミノ酸系のサプリメントです。バリン・ロイシン・イソロイシンの3種類から構成され、共に体内で合成することができない必須アミノ酸です。このアミノ酸はマグロや卵などに多く含まれ、バリン:ロイシン:イソロイシンが大体1:2:1の比率で含まれています。国内で市販されているBCAAはほぼこの比率で配合されています。厚生労働省が策定した摂取量の目安は体重1kgに対してバリン26mg、ロイシン39mg、イソロイシン20mgの合計85mgで、体重60kgだったら5100mgのBCAAが必要です。これを食事から摂取しようと思うと、最も含有率の高いマグロ赤身で100gあたり4500mg含まれているので100gちょっと。鶏卵では1個で1305mgなので約4個ほど摂ると良いことになります。

バリンロイシンイソロイシン

BCAA比率

本マグロ赤身1,4002,1001,3001:1.5:0.94,800
牛ひき肉8501,4007901:1.6:0.93,040
鶏卵(2個)8301,1006801:1.3:0.92,610
生乳1902801501:1.5:0.8620
母乳5799511:1.7:0.9207

「アミノ酸&脂肪酸組成」女子栄養大学出版部

 

 

BCAAの効能とプロテインとの違い

 バリン・ロイシン・イソロイシンは3種類揃って初めて相互補完し合い、BCAAとしての効力を発揮します。総合的なBCAAの効能は下記のとおりです。

  • 筋肉の強化・筋肉の分解の抑制
  • 疲労回復、及び疲労しにくくする
  • 判断力・集中力の向上

 それではプロテインとBCAAの違いですが、イメージとしてはプロテインをさらに吸収しやすいように細かく分解したものがBCAAになります。本来の目的も大きく異なり、BCAAは基本的にトレーニング前~トレーニング中に摂取し、筋肉の過剰な破壊を防ぎ、本来のポテンシャルをできるだけ長く発揮するためのサプリメントです。それに対しプロテインは基本的にトレーニング後に筋肉の超回復をさらに高めるために摂取するサプリメントです。たんぱく質は吸収する際にアミノ酸に分解され筋肉にエネルギー源や筋肉自体の原料として供給されますが、BCAAはアミノ酸なので素早く吸収されるので即効性が高くなります。プロテインが吸収するのに2時間以上かかるのに対し、BCAAは摂取から20~30分で血中濃度がピークに達します。

 

 

BCAAの効果的な摂取方法と摂取量

 BCAAはトレーニング30分~直前に摂取すると恩恵を最大限に受けることができます。BCAA摂取から30分後に血中濃度がピークに達し、その後2時間は高い値をキープすることができます。しかし、血中濃度を高い値でキープするには摂取する量にも気をつけなくてはなりません。1000mg以下の摂取量では1時間後の血中濃度は摂取前と同じ水準に戻ってしまいますので、2000mg以上はトレーニング前に摂取しなくてはなりません。そして、トレーニング中も少しずつ摂取すると高い値を長時間キープすることができます。体重1kgに対し85mgが摂取量の目安なので、体重60kgの筆者には5100mgを目安として摂取することになります。クライミング時間を3時間としてトレーニング前に2500mg、トレーニング中に30分ごとに500mg程度を5回ほど摂取すると理想的な血中濃度を維持できると思います。

 

 

BCAAの構成アミノ酸のそれぞれの役割

バリン(valine)

 BCAAの中でも苦味が強い成分で、①筋肉の修復と強化・②血液中の窒素濃度の調整・③アンモニアの代謝を促進の3つが主な効能です。BCAAを粉のままで摂取するとき苦くて飲みにくいですよね。BCAAの苦味はバリン特有の苦みのようです。

①筋肉の強化と修復

 バリンはイソロイシンと同じく筋肉を激しく動作させるためのエネルギー源でもあり、筋肉を構成する重要なアミノ酸の一種です。つまり筋肉の原料でもあり、筋肉を動かすための燃料でもあるということです。運動中はエネルギー源として作用し、運動後は傷ついた筋肉を修復する原料として作用します。

②血液中の窒素濃度の調整

 血液中には窒素が存在し、筋肉は窒素を取り込むことで成長します。つまり、トレーニングをすると筋肉は窒素を一定量血液から取り込むのです。しかし窒素はバランスが大事で、筋肉が窒素を取り込みすぎて血液中の窒素濃度が低下しすぎると筋肉を分解して血液中の窒素濃度を上げようとしてしまいます。バリンは血液中の窒素濃度を一定に保つ働きがあるので、筋肉の分解を抑制することができるのです。

③アンモニアの代謝を促進

 強い運動をすると筋肉(たんぱく質)が分解され、アンモニアが生じます。通常なら血液に溶けて肝臓で無毒化され尿として排出されますが、強度の高い運動を長時間続け、体内にアンモニアが蓄積されると脳症などを引き起こします。さらに細胞の中に入り込みエネルギーを作り出す細胞の核であるミトコンドリアの働きを鈍らせ、疲労の蓄積や細胞の老化、免疫力の低下を引き起こしてしまいます。バリンはアンモニアの処理を行うグルタミン酸を生成するため、バリンを摂取すると通常よりも多くのアンモニアを処理することができ、疲労回復や免疫力の上昇が期待できます。クライミングにおける”ヨレる”という現象にアンモニアは大きく関与しているようです。

 

 

ロイシン(Leicine)

 動物性たんぱく質に多く含まれる必須アミノ酸の一つで、①筋肉の形成を促進し、筋肉を失わせない、②肝機能の向上が主な効能です。バリン・イソロイシンと比較すると、直接筋肉を作るのではなく、たんぱく質を分解・生成することを調整することによって筋肉を維持・管理する役割が強い栄養素です。

①筋肉の形成を促進し、筋肉を失わせない

 ロイシンはインスリンの分泌を促す性質があり、エネルギーとしてのブドウ糖を筋肉に送るのを助ける働きがあります。ブドウ糖が欠乏すると「疲労感」という感覚で表面に出てきます。脳にとってもブドウ糖は重要で集中力を保つのに非常に重要な役割を担っています。このインスリンの分泌を促すことで持久力や瞬発力を高めたり、筋繊維の修復・強化を図ることができます。

②肝機能の向上

 肝臓は簡単にまとめると、体に必要な栄養素・エネルギー源を抽出し体中に供給し、体に不必要な成分や老廃物を濾過して排出する役割を担っています。肝臓が疲労して肝機能が低下すると全身の疲れにつながる可能性があります。ロイシンを摂取することで、肝機能の向上と身体の疲労回復が期待できます。

 

 

イソロイシン(isoleucine)

 イソロイシンは筋肉を形成するたんぱく質であり、人間の筋肉の35%がイソロイシンで形成されています。その他には①疲労回復、②成長促進、③神経機能強化の3つが主な効能となります。

①疲労回復

 人間にはおよそ1350kcal(筋肉内に1000kcal,肝臓に350kcal)分のすぐに使える貯蔵型エネルギー源であるグリコーゲンを蓄えています。筋肉内のグリコーゲンは主に筋肉を動かすため、肝臓内のグリコーゲンは血糖値の調整に使われます。ボルダリングでは毎時630kcal程度のカロリーを消費するといわれていますが、約二時間弱で筋肉に貯蔵していたグリコーゲンは完全に枯渇してしまいます。その時に何が起きるか。筋肉が分解されてエネルギー源となるブドウ糖を生成してしまうのです。これを糖新生というのですが、この現象は貯蔵していたグリコーゲンを完全に使ってしまう前に始ってしまうのです。この現象を避けるために貯蔵分が減ったらすぐに補う必要があります。グリコーゲンの原料はグルコースなのですが、イソロイシンはグルコースからグリコーゲンを生成し、貯蔵する働きを促進する効能を持っています。グリコーゲンの欠乏は血糖値の低下を招き、集中力の低下・疲労感となって現れるので、運動中も定期的にイソロイシンを摂取する必要があります。

②成長促進

 子供の成長には欠かせない存在のイソロイシン。甲状腺ホルモンの分泌を促し、身長や筋肉の強化に効果を発揮します。

③神経機能強化

 BCAAの中でイソロイシン固有の働きとして神経機能を補助する役割があります。人間の身体には無数の神経が存在します。五感を脳に伝達することはもちろん、それに反応して身体を動かす命令を体中に伝達するのもまた神経です。その伝達効率を補助する効能がイソロイシンにはあるため、判断力や反射速度を上げることに効果があります。また繊細で緻密な動きも神経機能が十分に機能を発揮していなければできません。ボルダリングでいうところのバランシーなスラブ課題や、ランジなどの瞬発力が必要な時にありがたい効能ですね。

 

 

BCAAの副作用

 BCAAは基本的には副作用はありません。必須アミノ酸9種類の中の3種類なので通常の食品とほぼ同じと思ってよいようです。アミノ酸なので胃腸で吸収されると直接筋肉に供給ます。サプリメントは基本的に肝臓で代謝するのですが、BCAAは肝臓はほぼスルーしてダイレクトに筋肉に届きます。しかもBCAAには肝機能をサポートするアミノ酸が含まれているので、BCAAが原因で肝機能低下に結びつくことはないとは思いますが、やはり取り過ぎは禁物です。吸収の際には肝臓にほとんど負担をかけませんが、筋肉で消費する際には尿素化合物(アンモニアなど)として肝臓で代謝して体外に排出されるため、通常時より若干肝臓に負担をかけてしまうかもしれません。基本的には体重x85mgの摂取量を上限として摂取すれば過剰摂取になることはないでしょう。

 また、身体機能の強化・維持以外にもうれしい副作用もあります。脳内にセロトニンというホルモンが多く分泌されると「眠気」「疲労感」を強く感じるようになります。セロトニンは必須アミノ酸であるトリプトファンの働きによって作られるのですが、そのトリプトファンが脳内に侵入するのを妨げてくれる成分がBCAAに入っているため、「眠気」や「疲労感」を感じにくくなるのです。セロトニンというホルモン自体は「幸せホルモン」と呼ばれ、心をリラックスさせる効果があります。ドーパミンやアドレナリンと同じく、三大神経伝達物質で決して悪いホルモンではなく、むしろ健康的に過ごすためには必要不可欠なホルモンなのですが、活動的に過ごしたいときに過剰に分泌されると「眠気」「疲労感」となって現れます。なので仕事や勉強の時などでもBCAAを適量摂取することは集中力を高めるためには良いのではないでしょうか。

 

 

まとめ

 BCAAは長時間のクライミングのために必須であることは明確ですね。集中力を高め、快適にクライミングに没頭するための要素がすべてここに詰まっています。しかし、過剰に期待するとガッカリすると思います。効果はクライミング中に実感することはあまりないかもしれません。若干いつもより調子いいかな?程度でしょう。しかし、疲れが次の日に残らなかったり、回復も早いので連登する時にはメンタル的にも強い味方になってくれることは間違いありません。

 次回はオススメBCAAを紹介したいと思います。

 

クライミング X BCAA 研究編

第1回基礎知識編:クライミングとBCAA 飲むタイミング(摂取方法)や摂取量、効果・副作用について

第2回:BCAAの選び方完全ガイド パウダータイプのBCAA編

第3回:BCAAの選び方完全ガイド タブレットタイプのBCAA編

第4回:BCAAの選び方完全ガイド ドリンクタイプのBCAA編

 

kawaski7210 :サイト訪問ありがとうございます。管理人のHiroです。2016年1月からボルダリングを本格的に開始しました。一緒に上級者目指して頑張りましょう!!

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